社会課題解決事業 実行計画策定と推進体制構築
社会課題解決事業の実行フェーズへ向けた準備
企業における社会課題解決事業の企画は、アイデア創出、ビジネスモデル設計、そして社内承認というプロセスを経て、いよいよ実行フェーズへと移行します。この段階で重要となるのが、承認された企画を具体的なアクションプランに落とし込む「実行計画の策定」と、計画を推進するための「体制構築」です。
抽象的な企画アイデアだけでは、実際に事業を進めることは困難です。特に、複数の社内部門や外部ステークホルダーとの連携が不可欠となる社会課題解決事業においては、誰が、何を、いつまでに、どのように行うのかを明確にした詳細な計画と、それを実行できる組織体制が求められます。
本記事では、社会課題解決事業を成功に導くための実行計画策定のステップと、効果的な推進体制の構築について解説します。
実行計画策定の主要ステップ
社会課題解決事業の実行計画は、一般的な新規事業の計画策定と多くの共通点がありますが、社会的なインパクトの創出という要素が加わるため、その点も考慮する必要があります。
1. 目標設定とKPI/KGIの明確化
企画段階で設定した事業全体のKGI(Key Goal Indicator: 重要目標達成指標)に基づき、実行フェーズにおける具体的な目標を設定します。特に、最初のパイロットやPoC(Proof of Concept: 概念実証)で何を達成したいのかを明確にします。
また、目標達成度合いを測るためのKPI(Key Performance Indicator: 重要業績評価指標)を設定します。この際、経済的なKPIだけでなく、社会的なインパクトを測定するためのKPI(例: サービス提供対象者の数、課題解決への貢献度を示す指標など)も併せて設定することが重要です。これらの指標は、後の効果測定や事業の軌道修正の基準となります。
2. WBS(作業分解構成図)の作成
プロジェクトを構成する全ての作業を洗い出し、階層構造で整理するWBSを作成します。これにより、作業漏れを防ぎ、各タスクの担当者や期間を明確にできます。
社会課題解決事業特有の作業として、対象となるコミュニティやNPOとの連携調整、行政への申請、法規制に関する確認、効果測定方法の詳細設計などが含まれることがあります。これらの作業は、一般的な事業開発では馴染みが薄い場合もあるため、慎重に洗い出す必要があります。
3. スケジュール策定
WBSで洗い出した各作業に対し、必要な期間、前後関係、担当者を割り当て、プロジェクト全体のスケジュールを策定します。ガントチャートなどのツールを活用し、視覚的に分かりやすい形で管理します。
外部連携が多い事業の場合、連携先との調整に時間を要することがあります。外部組織の意思決定プロセスやスケジュール感も考慮に入れ、現実的なスケジュールを設定することが重要です。
4. リソース計画と予算詳細化
事業実行に必要な人員、設備、資金などのリソースを詳細に計画します。特に人員については、必要なスキルセット(技術、ビジネス開発、社会課題に関する専門知識、連携調整能力など)を明確にし、社内からのアサインメントや外部からの採用・協力を検討します。
予算については、承認された概算予算を基に、WBSの各作業に必要なコストを積み上げ、詳細な実行予算を作成します。予期せぬコスト発生に備え、予備費の計上も検討します。社内リソース(人件費、既存設備利用料など)の見積もりも忘れずに行います。
5. リスク管理計画
事業推進における潜在的なリスクを洗い出し、それぞれの発生確率、影響度を評価し、リスク発生時の対応策(コンティンジェンシープラン)を計画します。
社会課題解決事業におけるリスクとしては、対象コミュニティからの反発、連携先との意見の相違、想定外の社会情勢の変化、規制の壁などが考えられます。これらのリスクに対する事前対策や発生時の対応方針を具体的に定めておくことで、事業の不確実性を低減できます。
推進体制構築のポイント
実行計画を支えるのは、それを推進する体制です。どのような体制で事業を進めるかは、事業の規模、性質、社内のリソース状況によって異なります。
1. 推進チームの組成
事業推進の中心となる専任チームを組成できるのが理想的ですが、初期段階では他業務との兼務となる場合が多いかもしれません。いずれの場合も、事業の目的に対する高いコミットメントと、必要なスキルセットを持った人材をアサインすることが重要です。
チームメンバーには、ビジネス開発能力に加え、社会課題への深い理解、多様なステークホルダーとのコミュニケーション能力、困難な状況でも粘り強く取り組む力が求められます。
2. 社内外連携の役割分担とコミュニケーション計画
事業推進には、企画部門だけでなく、関連する事業部門、営業、研究開発、法務、広報、CSR部門など、様々な社内部門との連携が必要となる場合があります。また、NPO、行政、地域住民、有識者などの外部ステークホルダーとの連携も不可欠です。
これらの社内外の関係者に対し、それぞれの役割、責任範囲、意思決定プロセスを明確に定めます。また、定期的な情報共有会議や報告会、個別相談の機会など、円滑なコミュニケーションを図るための計画を策定します。特に、社内関係者に対しては、事業の進捗だけでなく、社会課題解決への貢献状況やビジネスインパクトを継続的に報告し、理解と協力を得続ける努力が必要です。
3. ガバナンス体制の確立
事業の意思決定や進捗管理を行うためのガバナンス体制を確立します。プロジェクトリーダー、チーム内での役割分担、社内役員会やステアリングコミッティへの報告体制などを定めます。
社会課題解決事業においては、経済的なリターンだけでなく社会的なインパクトも重要な評価軸となります。この両面を適切に評価・判断できる体制を構築することが望ましいです。必要に応じて、外部の有識者や専門家をアドバイザーとして迎え入れることも検討できます。
計画実行に向けた初期アクション
詳細な実行計画と推進体制が整ったら、いよいよ計画に基づいた実行を開始します。多くの場合、最初のステップは小規模なパイロットプロジェクトやPoCとなります。
この初期アクションでは、計画通りに進んでいるか、想定外の問題が発生していないか、設定したKPI/KGIが測定可能かなどを確認します。計画はあくまで仮説であり、実際の実行を通じて得られる学びを基に、計画や体制を柔軟に見直していく姿勢が重要です。
まとめ
社会課題解決事業を成功に導くためには、企画段階の熱意を失うことなく、実行フェーズで計画通りに、かつ柔軟に進めることが不可欠です。そのためには、具体的で詳細な実行計画の策定と、それを推進できる適切な体制構築が鍵となります。
本記事で解説したステップとポイントを参考に、自社の社会課題解決事業を確実に前進させるための実行準備を進めていただければ幸いです。