企業社会貢献実践ノート

社会課題解決ビジネス 人材育成とチームスキル開発の要諦

Tags: 人材育成, スキル開発, チームビルディング, 社会課題解決, 新規事業, CSV

社会課題解決ビジネスにおける人材とチームの重要性

近年、大手企業においても、企業の成長と社会課題解決を両立させるCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)や、SDGs(持続可能な開発目標)達成に貢献する新規事業への関心が高まっています。しかし、従来の事業開発で培った知見やスキルセットだけでは、複雑な社会課題に向き合い、持続可能なビジネスとして成立させることは容易ではありません。

社会課題解決ビジネスは、経済的リターンだけでなく社会的インパクトの創出も同時に追求するため、多様なステークホルダーとの連携、当事者への深い理解、そして変化への柔軟な対応力が求められます。これらの要件を満たすには、新たなスキルを備えた人材の育成と、異なる強みを持つ人材が集まる効果的なチームの組成が不可欠となります。本稿では、社会課題解決ビジネスを推進する上で重要な人材育成とチームスキル開発について、その要諦を解説します。

社会課題解決ビジネスに求められる新たなスキルセット

社会課題解決ビジネスに携わる人材には、従来のビジネススキルに加え、以下のような特殊なスキルや視点が求められます。

大手企業における人材育成の課題とアプローチ

大手企業には、特定の専門分野に特化した優秀な人材や、既存事業の推進に長けた人材が豊富にいます。しかし、上記のような社会課題解決に特化したスキルは、組織内で体系的に育成されてこなかったケースが多いのが実情です。また、既存事業とは異なる評価軸やキャリアパスの不明確さも、人材育成の課題となりえます。

こうした課題を克服するためのアプローチとしては、以下が考えられます。

1. 研修・学習プログラムの設計

社会課題に関する基礎知識、システム思考、デザイン思考、CSV/SDGsの理論、インパクト評価手法、ステークホルダーエンゲージメントといった、社会課題解決ビジネスに特化した知識やスキルを習得するための研修プログラムを開発・導入します。社内研修に加え、外部の専門機関や大学との連携も有効です。

2. OJTとプロジェクト型学習

実際の社会課題解決プロジェクトへの参加を通じて、実践的にスキルを習得させるOJT(On-the-Job Training)が最も効果的です。メンター制度を導入し、経験豊富なリーダーや外部の専門家がサポートすることも重要です。また、短期間で特定の社会課題テーマに取り組むプロジェクト型学習も、多様なスキルを複合的に養う機会となります。

3. 異業種・異分野交流とネットワーキング

NPO、大学、スタートアップ、他の企業など、社会課題解決に取り組む様々な主体との交流機会を設けます。ワークショップやセミナーへの参加、共同プロジェクトの実施などを通じて、自社にはない知見や視点を取り込み、共創スキルを磨きます。

4. 評価制度・キャリアパスの見直し

社会課題解決への貢献を適切に評価する仕組みを検討します。経済的成果だけでなく、社会的インパクト創出への貢献、ステークホルダーとの関係構築能力なども評価対象に含めることで、人材のモチベーション向上と育成を促進します。社会課題解決ビジネスを専門とするキャリアパスを明確にすることも、優秀な人材の定着につながります。

効果的なチーム組成のポイント

社会課題解決ビジネスの成功には、多様な能力と視点を持つチームの組成が不可欠です。

1. 多様な専門性とバックグラウンド

事業開発、研究開発、マーケティングといったビジネス部門の専門性に加え、社会福祉、教育、環境、医療などの分野知識を持つ人材、あるいはNPOや地域コミュニティでの活動経験者など、多様なバックグラウンドを持つ人材をチームに加えることを検討します。異なる視点が混ざり合うことで、より包括的で創造的な解決策が生まれます。

2. 共通の目的と価値観の共有

多様なメンバーが集まるチームでは、共通の目的(解決を目指す社会課題)と価値観(例: 当事者中心、倫理観)を深く共有することが重要です。定期的なチームビルディング活動や対話を通じて、信頼関係を構築し、心理的安全性を確保することで、オープンな意見交換や建設的な議論が可能となります。

3. リーダーシップと役割分担

チームを牽引するリーダーには、ビジョンを明確に示し、多様なメンバーをまとめ上げる強いリーダーシップと共に、メンバーの意見に耳を傾け、強みを引き出すファシリテーション能力が求められます。各メンバーの専門性や経験に基づいた適切な役割分担を行うことも、チームの効率性と成果を高める上で重要です。

4. 外部リソースの活用

社内だけで全ての専門性を網羅することは困難な場合があります。必要に応じて、社会課題の専門家、NPO職員、研究者、デザイナー、技術者など、外部の専門家をプロジェクトアドバイザーとして招聘したり、業務委託や共同事業の形で連携したりすることも有効なチーム組成戦略の一つです。

社内での推進と継続的な改善

人材育成とチームスキル開発は一朝一夕に成し遂げられるものではありません。経営層の理解とコミットメントを得て、人事部門や既存事業部門との連携を密にしながら、継続的に推進していくことが重要です。成功事例やそこから得られた知見を社内で共有し、組織全体の社会課題解決に対する意識と能力を高めていくことも、長期的な視点での取り組みとなります。

まとめ

社会課題解決ビジネスを大手企業が推進し、持続可能な成功を収めるためには、従来のビジネススキルを超えた新たな能力を持つ人材の育成と、多様な強みを持つチームの組成が不可欠です。共感力、システム思考、共創力といったスキル開発を計画的に行い、多様なバックグラウンドを持つ人材が共通の目的の下で協力できるチーム環境を整備することが、複雑な社会課題に効果的に立ち向かうための要諦となります。本稿で述べたアプローチを参考に、貴社における人材育成・チーム開発戦略を具体的に検討されることをお勧めします。